ハステロイをはじめ、高融点材(モリブデン・タングステン・タンタル)を軸に一般金属からセラミックスまで『削る』・『切る』・『曲げる』・『繋げる』・『磨く』などすべてのあらゆる加工に対応しています。
ニッケルを主成分とし、モリブデン、クロム、鉄などの成分の配合比率によって、ハステロイBやハステロイCといったいくつかの種類に分かれています。ハステロイは析出硬化型のニッケル基合金に属していて、耐酸化性や耐熱性に特に優れているのが特徴です。「耐食性合金」とも呼ばれ、腐食性環境や高温環境で広く活用されています。ただし、構造材の用途に耐えるほどの物理的強度やクリープ強度*、疲労強度を持ち合わせているわけではないため、柱や土台などへの適用は避けたほうがよいでしょう。
クリープ強度*:繰り返しの負荷によって起こる形状変化への抵抗力のこと
ハステロイと並んで、インコネルもよく知られたニッケル超合金です。インコネルとハステロイはともに耐熱性と耐食性に優れ、さらには難削材であるという点も共通しています。しかし、両者の違いをきちんと理解し、用途に合わせてハステロイかインコネルかを選択することが重要です。
インコネルは高温環境下でのクリープ強度や引張強度に優れています。一方、ハステロイは耐食性に特化した合金素材です。インコネルも種類によって耐食性に優れたものがありますが、孔食や隙間腐食などの局部腐食に対しては、ハステロイを採用したほうが安心です。一方、ハステロイはクリープ強度や引張強度はあまり高くないため、高温環境下での機械的特性を重視する場合は、インコネルの方が適しています。
特性 | インコネル | ハステロイ |
耐熱性 | 高い | 高い |
耐食性 | 高い(種類による) | 非常に高い |
クリープ強度 | 高い | あまり高くない |
引張強度 | 高い | あまり高くない |
最適な用途 | 高温環境下での機械的特性が重要な場合 | 耐食性が特に求められる場合 |
インコネルとハステロイのどちらも高温環境下で機械的特性を保つことができますが、クリープ強度や引張強度も考慮するとインコネルのほうが優秀です。耐食性に関しては、ハステロイが抜群の性能を発揮します。
ヘインズインターナショナル社では、基本的に耐食合金はハステロイブランドとして、耐熱合金はヘインズブランドとして区別しています。ただし、ハステロイXなど一部のハステロイ合金は耐熱合金に分類されているようです。ここでは、ハステロイの主な種類を紹介します。
・ハステロイB-3(HASTELLOY® B-3® 合金)
ハステロイB-3はハステロイBおよびB-2から改良された合金です。構造的安定性が大幅に向上し、製造工程や運用時における素材の信頼性が高まっています。耐食性に非常に優れ、純粋な塩酸、臭化水素酸、硫酸に対する耐性が高いです。塩化物含有溶液中で耐応力腐食割れ性も示します。
・ハステロイC-22(HASTELLOY® C-22® 合金)
ハステロイC-22は高温環境下でも高い耐食性を保つという特徴があります。オーステナイト系ステンレス鋼に発生しやすい孔食や隙間腐食に対し、非常に強い合金素材です。酸化物への耐性にも優れています。
・ハステロイC-276(HASTELLOY® C-276 合金)
炭素とケイ素の含有量を極端に低くすることで、溶接時の不具合発生を抑えたニッケルークロムーモリブデン合金です。純粋な塩酸、臭化水素酸および硫酸に対して非常に高い耐性を示すだけでなく、高温環境での腐食にも耐えることができます。
・ハステロイX(HASTELLOY® X 合金)
ハステロイXは耐酸化性と加工性、高温強度をあわせ持ったニッケルークロムーモリブデン合金です。応力腐食割れに強いことから石油化学分野で活用されているほか、航空宇宙用途でも50年近く使用されてきた実績があります。
ハステロイは、その非常に高い耐食性を活かした用途が多いです。特に化学産業分野への活用が盛んで、反応器や熱交換器といった化学工業設備、あるいは化学薬品製造設備などに使用されています。また、パルプ・製紙分野の用途もあります。具体的には製紙工業設備や廃棄物処理設備、漂白設備などです。そのほか、ハステロイは有害廃棄物の焼却装置や放射性廃棄物の処理施設、ガスタービン、ジェットエンジンのような高温あるいは特殊な環境下での使用にも耐えることができます。
ハステロイは耐熱性と耐腐食性に優れている一方で、切削性に難がある素材です。「高温強度の高さ」「熱伝導率の低さ」「加工硬化のしやすさ」「工具材質との親和性」といった難削材の4条件を満たしているためです。ハステロイの切削に慣れていない加工業者の場合、工具の破損や精度の低下を回避するのは難しいでしょう。
高温になっても強度があまり下がらない上に加工時の熱も逃げにくいので、切削工具のほうがダメージを受けやすくなります。さらに加工硬化が起これば、工具の摩耗が早まってしまうでしょう。また、ハステロイの切り粉は工具材質となじみやすいので、刃先に溶着しないように注意して作業を進める必要があります。
ハステロイの切削には、超硬度の金属を加工できる工具を用意しなければなりません。また、切削条件を見直して、加工精度の向上や工具負担の低減を図ることも大切です。以下、切削工具と切削条件について説明します。
難削材のハステロイを切削するには超硬合金製の工具が有効です。さらに多刃工具を使用すれば切削時の発熱も抑えられます。ハステロイは切削抵抗が大きいため、重切削に耐えられる加工機械や切削工具を選ぶとよいでしょう。
スローアウェイチップでハステロイの切削をするのは難しいかもしれません。チップの取り付け状態に不備があると、加工品質が著しく下がるためです。適切な切削チップをホルダーにロウ付けした「完成バイト」のほうがハステロイのような高強度の金属切削に向いています。
ハステロイの加工をスムーズに進めるには、適切な切削工具を用意するだけでは不十分です。より最適な切削条件になるよう、見直しを適宜おこなうようにしてください。切り込み量に合った刃先角になるよう調整したり切削油で温度上昇を抑えたりするなど、細やかな対応をしていくことが重要です。
切削条件を見直すことにより、加工精度の向上や工具寿命の延長が期待できます。しかし、鉄鋼やステンレス、アルミ合金のような一般的な金属材料と違って、ハステロイの切削経験に乏しい加工業者は少なくありません。ハステロイの切削加工を依頼するときは、切削条件の最適化ができる経験豊富な加工業者を選びましょう。