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インバーは常温環境での熱膨張が起こりにくく、寸法安定性が求められる領域でよく活用される合金です。精密性が必要な機器や装置の部品としての用途が多くありますが、難削材であるため切削加工が難しい金属でもあります。今回はインバーの特徴や成分、特性について説明し、種類や用途、切削性および切削加工における注意点も解説します。

インバーとは

インバーあるいはインバー合金という名称は、英語の「インヴェアリアブル スティール:Invariable Steel(変形しない鋼)」が由来です。フランス語読みでアンバーと言ったり、低熱膨張合金や不変鋼と呼んだりもします。ここでは、インバーの特徴や成分、特性について解説します。

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インバーの特徴

インバーは寸法安定性に優れた金属素材です。一般的な金属は加熱によって膨張し、冷却されれば収縮しますが、インバーは特定の温度範囲であれば温度変化が起こっても寸法がほとんど変わりません。これは「温度上昇による熱膨張」と「強磁性から常磁性に転換する際の体積収縮」が同時に起こるためです。熱膨張係数が鉄やニッケルの10分の1程度しかないことから、インバーは高い寸法安定性が求められる用途で活用されています。

インバーの成分

インバーの主成分は鉄(Fe)とニッケル(Ni)で、鉄が約64%、ニッケルが36%前後です。この配合比によって温度変化にともなう膨張や収縮を抑制することができます。マンガン(Mn)やコバルト(Co)、ケイ素(Si)、炭素(C)なども微量に含まれます。

 

インバーの成分表(参考値)

Ni Fe Cr C Mn Si Co P S
35~37% 63~65% 0.25%以下 0.15%以下 0.60%以下 0.40%以下 0.50%以下 0.025%以下 0.02%以下

インバーの特性

インバーは寸法安定性のほかに、電気伝導性や溶接性、弾性といった金属特有の性質にも優れています。セラミックや硬質ガラスのように非金属で温度変化の影響を受けにくい材料もありますが、金属の特性も持ち合わせているのがインバーの優位性といえるでしょう。タンタルやタングステンなどの低膨張性を有する他の金属と比べても安価なため、コストパフォーマンスも高いです。

 

しかし、インバーの寸法安定性は特定の温度範囲(-250 200°C)に限られます。この範囲を大きく超えると熱膨張率が逆に高くなってしまうので、適切な温度管理が必要です。室温の乾燥雰囲気では耐腐食性を示しますが、多湿環境だとサビが発生する場合があります。

 

ほかにも高強度で耐熱性や制振性にも優れるなど、インバーはさまざまな特性を持った金属素材です。また、インバーは強磁性合金でもあり、キュリー点(276.7)以下で強い磁性を発揮します。

インバー材の種類

インバー材の種類としては「インバー36FN36」のほかに、コバルトの割合を高めた「スーパーインバー/FN315」があります。

インバー36(Invar36)/FN36

公的な名称は「Fe-Ni36%」ですが、Aperam Imphy Alloys社の登録商標である「インバー」という呼称が広く用いられています。30100の範囲で、熱膨張係数が 2.0 × 10-6/ 以下と非常に低いのが特徴です。たとえば純鉄の熱膨張係数は 11.7 × 10-6/ 、オーステナイト系ステンレス鋼のSUS304 17.3 × 10-6/ であり、それらの数値と比較するとインバー36の熱膨張率がいかに低いのかが理解しやすいでしょう。

 

セラミックなどの非金属と違って伸縮性や延性があるため加工性が高く、溶接加工やハンダ加工にも対応できます。比較的安価であることからも、多くの分野で活用されている金属材料です。

スーパーインバー(Super Invar)/FN315

インバーよりも寸法安定性をさらに強化したのがスーパーインバーです。鉄にニッケルを31.532%、コバルトを45%配合した三元合金で、熱膨張係数は鉄の100分の1以下にまで抑えられています(30100の範囲の熱膨張係数が 1.3 × 10-6/ 以下)。超精密機械の部品など、温度上昇による微細な寸法誤差すらも許されないような用途に最適な素材です。

一方、インバーとスーパーインバーに共通する欠点として切削性の難しさが挙げられます。どちらもニッケル含有率が高いので粘り気があり、熱伝導率の低さや工具との親和性の高さも相まって、切削加工は非常に困難です。

インバーの用途

インバーは熱による寸法変化を避けたい機器・装置で活用されています。以下に、その主な用途を紹介します。

・精密機械類

半導体製造装置や半導体露光装置、精密検査装置など、熱による微小な寸法変化でも品質に影響を及ぼしてしまう機器の部品に有用です。光学装置や各種測定器、測量機器などの製造にも利用されています。

 

・バイメタル材料

バイメタルとは熱膨張係数の異なる金属を接合した材料のことです。それぞれの金属が持つ熱膨張係数の違いを利用して、温度変化に応じた変形を利用します。バイメタルの片側にはインバーのような低膨張性材料が採用されます。

 

・航空宇宙産業

航空宇宙産業では、人工衛星の電子制御ユニット用フレーム、航空機向け炭素繊維強化プラスチック(CFRP)部品の製造金型などにインバーが採用されています。宇宙開発では極低温環境も想定されるため、低熱膨張性に優れるインバーは最適な素材です。

 

・輸送・貯蔵タンク

液化天然ガス(LNG)のような低温で輸送・貯蔵するためのタンク、あるいはその配管にもインバーが使用されています。LNG関連設備は極めて低い温度で運用されるため、-250まで寸法安定性を保てるインバーが有効です。

 

・その他の用途

すでに20世紀初頭頃から時計の振り子部品として使用されています。CRTモニタ(ブラウン管)のシャドーマスクフレームやレーザー制御装置内の電磁レンズシステムなどにも適用され、幅広い分野で需要が高い金属素材です。

インバーの切削性

インバーとスーパーインバーは熱膨張を起こさないため、製品寸法がほとんど狂わない金属です。その反面、このような低熱膨張材は切削加工の難易度が高く、一般的には難削材に分類されます。熱伝導率が低く加工箇所に熱がこもりやすいのが、インバーの切削を難しくしている大きな原因です。また、インバーの延性の大きさや、工具との親和性の高さなども、典型的な難削材の条件に当てはまっています。

インバーを切削加工する際の注意点

インバーとスーパーインバーは難削材であるため、切削加工の際にいくつかの注意点を押さえておくことが必要です。

適切な工具選択と切削条件の最適化が必要

インバーの寸法安定性がいくら高くても、元々の加工精度が低くては意味がありません。高精度でインバーを切削加工するには、工具の選択と切削条件の設定が重要です。特に以下の2点への対策に留意しましょう。

 

・工具との親和性の高さ

インバーは工具材料との親和性が高いため、切削時には工具に切り粉が溶着しやすいです。工具の先端に切り粉が付着すると工具の消耗が激しくなるだけでなく、仕上がりも悪くなります。結果として加工にかかる時間とコストを増大させてしまいます。

 

・熱伝導率の低さ

熱伝導率が低い特性上、インバーは切削加工中に生じた熱がなかなか逃げません。過熱された切削工具は痛みやすくなり、摩耗や破損の原因になります。インバーの切削条件としては、低回転で切り込みを大きくしたほうが良いとされています。

切削加工の経験とノウハウが不可欠

インバー切削では、難削材加工における確かな技術とノウハウが必要となります。そのためには「加工経験」と「加工実績」が何よりも重要です。十分な経験と実績があれば、材料に応じて最適な切削速度を見つけたり、効果的な工具を選んだりすることができます。高品質の切削加工を実現したいのなら、熟練の知識と技術を持った加工業者への依頼をおすすめします。

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