窒化ケイ素には優れた機械的特性がいくつもありますが、切削加工をする際には逆に障害となります。そもそもファインセラミックスである窒化ケイ素は、切削工具の材料として採用されるほど耐摩耗性の高い物質です。特に強度および硬度、靭性が高いことが、窒化ケイ素に難削材としての側面を持たせています。
※ファインセラミックス:化学組成や結晶構造、製造工程などを厳格に制御してつくられる高精密セラミックスのこと。新しい特性・機能をもつセラミックとして、自然材料から作られる従来のセラミック(陶器・磁器)と区別する。
工業用セラミックスとして利用される場合、焼結された窒化ケイ素を切削加工します。切削にはダイヤモンド工具(ダイヤモンド砥石・ダイヤモンドワイヤーソー・ダイヤモンドホイールなど)を用いるのが一般的ですが、窒化ケイ素に対して4~5倍の硬さを持つダイヤモンであっても著しく摩耗します。そのため、ダイヤモンド工具よりも硬度が劣るCBN工具だと、スムーズに切削をおこなうのは困難です。
これまでの説明から、窒化ケイ素を切断や穴あけといった機械加工をする際には、加工条件の見極めが重要になることは容易に想像できるでしょう。条件設定の不備で工具の交換頻度が高くなってしまうと、想定以上の加工コストがかかってしまいます。
窒化ケイ素の加工時の問題は工具の消耗だけではありません。セラミック材料の内部に機械的応力が生じるリスクも考慮する必要があります。残留応力は破損やクラック(割れ)の原因となるため、材料用途によっては熱処理・応力除去焼結といった後処理の工程が不可欠です。特に厚さ100μm未満の薄板材料のような精密加工が求められるセラミック片の場合には、加工後工程が複雑になることで生産コストや加工時間が増加するケースがあります。
窒化ケイ素の切削に関する課題を速やかに解決したいのなら、熟練の技術を持つ加工業者に依頼するのがおすすめです。特定の工具や高剛性の工作機械を所有しているか、窒化ケイ素の特性を熟知した上で適切な加工法の選定および加工条件の調整ができるか、といったポイントで判断しましょう。